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20. ドイツ ベルリンの壁 開放のとき [1986年~91年東ドイツ回想録]

それは、1989年11月9日の夜遅くのことだった。 
歴史の扉が静かに開かれた・・・

周りの東欧諸国が少しづつ民主化を進めている中で、それに遅れをとっていた東ドイツ。
国内のあちこちで反政府デモが起こるようになっていた・・・でも、
まさか、そんなことがこの日に起こるなんて、私だけじゃなく、そこに歩いているドイツ人だって
思っていなかったと思う。

一夜明けた、11月10日。
夫は前日から西ドイツのデュッセルドルフに出張に行っていて、東ベルリンの家には
私と娘だけだった。
夫もいないし、朝もゆっくり。テレビ画面には日本から送ってもらって大事に大事に何度も観ている
NHK「おかあさんと一緒」のビデオが流れている。
ドイツのニュースなど昨夜から一度もつけていなかった。
大型高層アパートの9階(日本式10階)の部屋では下の喧騒など聞こえるはずもない。

1989年11月10日午前  東ベルリンLeipziger Str.


よく目を凝らしてご覧ください。これは我家のバルコニーから写した写真ですが、通りを渡った向こう側の歩道に人々の列が確認できるでしょうか。

午前中、何時だったか、リビング側の窓を何気なく・・・
本当に何気なく、窓の外に視線をやると・・なんだかいつもより人も車も多い気配がする・・・
何か異変を感じた。
「えっ?なんだろう・・?」こんな所に人がこんなに集まることは今までまずなかった。
バルコニーへ飛び出して、よく下を見下ろしてみると、
片側3車線の大きなLeipziger Str.が初めて見る車の大渋滞。
道の両端には車がぎっしり駐車してあり、
通りの向こう側の歩道には人々の長蛇の列ができている。
そして、その歩道に広がった人々の列は建物の角をまがっており、向かう先には、
西ベルリンへ出ることができる国境検問所・(西側の呼び名・チェックポイントチャーリー)
あるだけだ。
車も西の方面へ、国境検問所(チェックポイントチャーリー)へ向かう車道だけが大渋滞になっている。


見づらいので、人々の列に沿って→を付けました。
→の方向に建物の角を曲がると、数十メートルで国境検問所(チェックポイントチャーリー)があり、
それを超えると、そこは西ベルリンです。

東の住民が国境へ向かう・・・・??
「えっ? なに? 」「えっ?? うそうそ?」「ま さ か・・ね・・!?」
私は本当に独り言のようにブツブツ、そして心の中でこう叫んでいた。
いてもたっても、どうしていいかわからなくなった。
「もしかして、すごい事が起きている・・・!!」
普段からドイツのテレビを情報源にできるほど力のない私は、そのせいなのか、
なぜかテレビをドイツのニュース番組に変えようという案はその時全く思いつかず、
下へ降りて事実を確かめにいかなくては・・と咄嗟に思った。しかし、
娘を抱いて、降りていって、もし何か危険なことでもおこっては逃げるに逃げられない。

私は娘が午前のお昼寝をするのを待って、家を飛び出した。カメラをも持たずに。
ただ自分の目で確認するだけ・・ただそれだけの想いだった。
幸いにも、娘はとても育てやすく、昼寝もたっぷり、目覚めても一人で機嫌よくベッドの中で
遊んでいる子だった。
ちょっとの間だけ・・!!
私はエレベーターを降り、アパートの前のLeipziger通りを急いで横断、向こう側の歩道に渡った。
大きな歩道に広がった列の先端を突き止めようと走った・・・

「やっぱり!」・・・先端は私がいつも通っている、国境検問所(チェックポイントチャーリー)に
吸い込まれていた。
なんだか身体全体が震えるような感覚で、並んでいる人々を見ながら、
見えている一番先頭の人に駆け寄った。
「何が起こったんですか??」と問いかけた。
「国境が開放されたのよ!!」
人々の顔を見て、私は表現しようのないたまらない気持ちになった。
そしてほんの少しの間その場に立ちすくんでいた・・
意外と静かで、整然としていた。
乳母車を押した家族連れ。若い友達どうし。おじいさんもおばあさんも。
11月の寒空の中、皆いろいろな想いを抱いて、その時を並んで待っている。
信じられない光景を目の前にして、歴史が動いたんだという感動でいっぱいになった。
どのくらいの間だったか・・1、2分のことだったか・・
私は猛ダッシュで家へと走った。アパートの下までは走ったら2分くらいである。
それでも、行って帰って10分か、いやもうちょっと・・留守をしてしまった。
娘の寝顔を見てほっとすると、電話が鳴った。

デュッセルドルフにいる夫からだった。「大丈夫??」第一声だった。
普段冷静な夫も、早口、緊迫した口調だった。
こんな歴史的なことが起こるときは、何か起こってもおかしくはない。
「うん、大丈夫。何も起こってない。でも、下がすごい人なの!!みんなチェックポイントに
向かっているの!すごいよ。壁が開いたのよ!!!」
私は興奮がいつまでも冷めやらなかった。

今からちょうど18年前。
銃声ひとつ響くことなく、
民衆の力で
静かに、平和の中で・・・
まさに、私の目の前で・・・
冷戦の象徴であるベルリンの壁が崩れ落ちた。
「ベルリンの壁崩壊」は、その後の「冷戦の終結への始まり」となっていった。

 


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やおかずみ

rinoさん こんばんは
私は昨年ベルリンに行きましたが、今はrinoさんが体験された
緊張感が、忘れ去られたように平和でした。貴重なお話ありが
とうございました。
by やおかずみ (2007-11-11 20:30) 

rinoさーーん、読みながら泣いてました。
まさに、その時、歴史が動いた!ですね。
何とも言葉が出ません・・・。
貴重なご体験、お話ありがとうございました。
by (2007-11-11 21:44) 

miffy

その場にいた人にしかわからない興奮が伝わってきました。
歴史的な瞬間に立ち会えた素晴らしい時間でしたね。
何事もなく平穏に壁がなくなったことは奇跡に近いですよね。
とっても感動的なお話でした。
ありがとうございます。
by miffy (2007-11-11 21:58) 

naomama7

す、すごく貴重な体験でしたね。
歴史的瞬間に、その場所にいられるなんて
なんて、奇遇?奇跡的なんでしょう。
そしてまた、rinoさんのブログを通して
その瞬間を再度確認できている私も
幸せだと思います。
ありがとうございます。
by naomama7 (2007-11-11 22:23) 

noie

ニュースで崩壊を聞いたときは、私も信じられませんでしたが、
こうやって目の前で実感なさったら、どれほど驚かれたことかと
思います。
涙を流し、静かに喜びをかみしめていた人々の姿を思い出します。
流血騒ぎもなく、本当に奇跡的な出来事でしたね。
長年じっと辛抱してきた人々の事を考えると、胸が熱くなりました。
by noie (2007-11-11 23:28) 

nachic

リアルタイムで歴史のダイナミックな転換期を見てしまった
のですね。テレビで観ているだけでも、ドキドキしました。
今、東にいた人たちは、幸せになっているのでしょうか。
by nachic (2007-11-12 02:30) 

ブルーメン

まさか崩壊の場に居たなんて、すごい経験です!
当時の状況のお話しとお写真を拝見しながら心境が高ぶりました!
rinoさんの貴重な経験談ありがとうございました!!!
by ブルーメン (2007-11-12 05:14) 

krause

とても貴重なお話しを有難うございます。まさに、歴史の変化の瞬間の迫力を感じました。
by krause (2007-11-12 05:52) 

Inatimy

以前見せていただいた、誰も歩いていないLeipziger通りのお写真とは、まったく違った雰囲気でビックリしました。 ベルリンの壁崩壊後、日々の生活は、変わったのでしょうか・・・。 以前見た映画「グッバイ・レーニン」を思い出しました。
by Inatimy (2007-11-12 06:10) 

rino

>やおかずみさま
昔のお話にお付き合いくださいましてありがとうございました。
ベルリンの今はすっかり東も西もなくなり活気にあふれていることでしょうね。
by rino (2007-11-12 17:42) 

rino

>夢空さま
お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
あの長蛇の列を見た時は、本音は皆やっぱり西に行きたかったのだと
思いました。
by rino (2007-11-12 17:46) 

rino

>miffyさま
お付き合いくださいましてありがとうございました。
歴史的瞬間を味わうことができて幸せに思いました。
ただ、自由になった人々を見て、喜びで一杯になりました。
by rino (2007-11-12 20:27) 

rino

>naomama7さま
お付き合いくださいましてありがとうございました。
歴史的瞬間を東側から見れたことをとても幸せに思いました。
その場に居合わせたことも軌跡的なことだったと思っています。
by rino (2007-11-12 20:31) 

rino

>noieさま
お付き合いくださいまして、ありがとうございました。
長年離れ離れになった人々や亡命に失敗して命を落とした人のことを
考えると、胸が熱くなりました。
by rino (2007-11-12 20:33) 

rino

>nachicさま
当時は東出身の人々は経済格差や失業などで随分ご苦労したと思います。吸収した西ドイツも重荷を背負った形になり、経済が混乱しました。
18年たった今もまだ問題は沢山あるのだと思いますが、皆逞しく幸せになっていてほしいと思いますね。
by rino (2007-11-12 20:38) 

rino

>satoeさま
お付き合いくださいましてありがとうございました。
その場にいられたことは一生の思い出になりました。
主人はその日にベルリンにいられなかったので後々残念がっていたんですよ。
by rino (2007-11-12 20:41) 

rino

>Krauseさま
お付き合いくださいましてありがとうございました。
流血騒ぎも起こらず、穏やかに壁が開いたことは本当に良かったと
思いました。
by rino (2007-11-12 20:43) 

rino

>Inatimyさま
お付き合いくださり、ありがとうございます。
アパートの前の通りがこんなに一杯になることは初めてでしたので
異様な雰囲気でした。
この写真の9年後にここを訪れたときは又雰囲気が一変していて
びっくりしたのですよ。
by rino (2007-11-12 20:46) 

Nicoli♪

じっくり拝読させていただきますね。
by Nicoli♪ (2007-11-12 20:51) 

rose

緊迫した状況が伝わってくるようでした。
確かにこういう時って何が起こるか分からないので怖いですけど
通りに走ったrinoさんの気持ちもすごく分かります。
それだけ信じられないことだったのですね。

ベルリンの壁の崩壊、東欧諸国の共産党政権崩壊は、
1989年のルーマニア民主化革命にも大変な影響を与えていますよ。
壁が崩れたことによってルーマニア国内でも革命の機運が高まって、
革命が起きたのはベルリンの壁崩壊から約1ヶ月後のことでした。
ただ、こちらはやはりいくらかの犠牲が伴いましたが、血を流さずに
壁が壊れたというのは驚きですね!
by rose (2007-11-12 22:38) 

史実の目撃者としての回想録。臨場感、緊迫感、迫力。
毎回、引き込まれながら拝読しております。

銃声の無い無血での崩壊。人や車の長蛇の列から、当時の市民の方々の喜びが充分感じられます。

それにしても、とてつもない歴史の転換期に立ち会われたのですね・・・・
by (2007-11-13 05:10) 

Baldhead1010

人間の意志・・・これが今の日本にはないですね。
by Baldhead1010 (2007-11-13 07:16) 

mint_tea

遠く日本にいてさえ凄く不思議で、なんだか分からないけど漠然と大きな歴史の動きを感じていました。その‘時’の雰囲気やrinoさんの感情が伝わってきました。貴重なお話ありがとうございます。本当に暴動や不慮の事故があってもおかしくない状態だったと思いますが、意外と冷静だったのですね。たまたま西側にいたご主人の心配や不安な気持ちも計り知れないものがあったと思います。
by mint_tea (2007-11-13 19:39) 

めぎ

そう、あの日は、テレビの映像で見ても、いったい何がどうなっているのか、よく分からなかったんです。ものすごい混乱になっているのか、整然としているのか。東側のこの写真、ものすごく貴重ですね。
by めぎ (2007-11-13 21:21) 

マダム・リー

何という歴史的瞬間・・・
言葉がありません。
このとき国境へ向かって歩いていた人々の心境は
いかばかりだったでしょう?
by マダム・リー (2007-11-13 22:39) 

hihimama

すごいです。。。歴史的瞬間を目の当たりにされたんですね。。
本当に貴重なお写真ですね。。貴重なものを本当にありがとうございました。。
by hihimama (2007-11-14 15:55) 

Mimosa

とっても歴史的な出来事を間近で自分の目で確かめられたというのは、貴重な体験でしたね。でも、ある日突然、滞在中の外国でこういう光景を目にすると、何が起きたのか、自分はどうしたらいいの?と焦っちゃう気持ち、とってもわかります。。。
ベルリンの壁崩壊の様子の貴重なレポート、ありがとうございました!この続きも気になります・・・!
by Mimosa (2007-11-16 07:45) 

rino

>roseさま
通りにでてみたら、あまりに老若男女普通の人々が普通に並んでいたので
大丈夫と思い、どんどん進んで見に行ってしまいました。
その後のルーマニアの事は東ベルリンの家でテレビで見ていました。
大変だったのですよね。
by rino (2007-11-16 22:25) 

rino

>自由人さま
人々がこんなにすぐ普通にならんで西ベルリンに行こうとしている姿をみて
やっぱりみんな普通に西に行って見たいと思っていたんだということを
再確認しました。

>Baldhead1010さま
確かにそういえるかもしれませんね^^;

>mint_teaさま
まだ午前中の東側はわりと静かなものでした。
西側では東から出てきた人を歓迎する機運が高まって大騒ぎになっていったと思います。

>めぎさま
この私の経験の直後からきっと西側でもお祭り騒ぎになったり、マスコミも
つめかけてすごいことになっていったのではないでしょうか・・

>マダム・リーさま
東の人々はいつかこうなりたいとずっと願っていたのだと、私は思いました。きっとこの時は期待感でいっぱいだったのではないでしょうか・・・

>hihimamaさま
この日、この写真だけしかないのですが、撮っておいてよかったと思いました。でも下に下りたときはカメラを持っていなかったわけですから
ジャーナリストにはなれないですね・・^^

>Mimosaさま
本当にまさか・・というできごとだったんですよ。こんなことになるとは
一般の人々の間ではうわさにもなっていなかったんです。
本当に突然でした。
by rino (2007-11-16 22:37) 

rino

>takagakiさま・きぃさま・hnbergさま・ミラクルママさま
 julesさま・オデコさま・吉之輔さま・はっこうさま・xml_xslさま

いつもnice!をありがとうございます。初めていらしてくださいました方ありがとうございました!!
by rino (2007-11-16 22:43) 

rino

>Nicoli♪さま
お読みいただきましてありがとうございました。
by rino (2007-11-16 22:44) 

いっぷく

あの頃はTVニュースに食い入って見ていましたね。
歴史的な瞬間に立ち会ったようなものですね。
1989年の今ごろだったんですね。歴史が音を立てて動いたように
感じました、感慨深いですね。
by いっぷく (2007-11-18 17:43) 

マサト

はじめまして、ベルリン在住のマサトと申します。
こういう貴重な体験をされた方のお話をブログで読むことができるというのは、本当にすごいことだと思います。感動しました!私は壁の崩壊を直接体験した者ではありませんが、18年前のあの日にまつわる話を書いてみましたのでお読みいただけるとうれしいです。TBを試みたのですが、うまくいかなかったでしょうか?
by マサト (2007-11-21 19:05) 

rino

>いっぷくさま
昔話にお付き合いいただきましてありがとうございました。
私はテレビやラジオでのニュースを聞いていなかったので・・
自分の目で確かめたこと、歴史の瞬間に立ち会ったという気持ちで
いっぱいになりました。
by rino (2007-11-23 14:48) 

rino

>マサトさま
ご訪問いただきましてありがとうございました。
私も実は以前にマサトさんのブログ、ベルリン中央駅によらせていただいたことがございます。コメントも書けずにごめんなさい。

以前、ふさわしくないサイトのTBがついたものですから、現在受け付けない設定にしておりました。
又、受け付ける設定になおしましましたのでよろしかったら付けていただけますか。
また、こちらからもブログに寄らせていただきますね。どうぞよろしく
おねがいします。
by rino (2007-11-23 14:59) 

jyoji-san

とても貴重な体験ですね。そしてこの文章は若者達の学校の教科書に載せて欲しいくらいです。日本人の目からみた稀な体験談に興奮しました。
by jyoji-san (2007-11-25 21:24) 

rino

>amagiriさま
ありがとうございます。amaguriさんに読んでいただけて嬉しいです!
by rino (2007-11-26 11:35) 

mittyan2777

遠い日本でニュースで見た映像思い出します。またとない貴重な体験されましたね。その場に居合わせたからこその歴史的瞬間が臨場感・緊迫感あふれていて感慨深いです。
by mittyan2777 (2007-11-28 01:52) 

マサト

rinoさん、こんにちは。
TB、今度はうまくいったようです。ほっとしました^^;)。よかったら折り返しのTBをよろしくお願いします。
by マサト (2007-11-28 03:20) 

rino

>mittyan2777さま
ご訪問とコメントありがとうございます。
そこに運命的に居合わせた一人の主婦が思いでを記事にしてみました。
お読みくださりありがとうございました。
by rino (2007-11-28 15:17) 

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